
雪をテーマにした現代詩、その(9)。
雪の糸で 芦野時子
雪が外にも心にも降りつむ日には
終日窓辺にすわって
ざっくりと 白い毛糸で編みましょうか
老眼鏡の中の銀色のかぎ針を ゆっくり泳がせながら
雪原のように 白く大きいひざかけを
めまいがする程白い雪原は
ちょっと淋しすぎるから
林の中に点々と残る紅い実を
ポチポチと 刺しましょうか
それとも 吹雪の日に喪くした黒い手袋を
クロスステッチにしましょうか
からっぽになってしまった古いゆりかごに
サラサラ積んだり崩れたりする
雪の音のかすかなルフランに
杳(とお)い日の子守唄が重なる
雪が外にも心にも降り積む日には
終日窓辺にすわって
老眼鏡の中のなつかしい物音を
ひと針 ひと針にすくって
ざっくりと太い白い毛糸で
大きなひざかけでも編みましょうか
芦野時子(1926~2013)は秋田県生まれ。女性だけの詩誌「海図」で作品を発表した。
第1詩集『蔓薔薇の窓』(1982 秋田文化出版社)より。